たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

おふくろの味だけど


母の味といったら、かぼちゃの煮付けとほうれん草の白和え。その2つである。

そりゃまあ、カレーやらなんやらもつくってくれたが、自分も好きで作るものといったらこの2つしかない。

家族はだいたい味の好みが似てくると思うが、我が家に関しては違った。

父は肉と洋食が大嫌い。煮魚と焼き魚と和食のおひたしと煮物しか食べない人である。

その魚も、煮魚はサバとカジキ。焼き魚はサンマ、アジの干物くらいでローテーションを回し続けないと機嫌が悪くなった。

もっとも同じものを食べ続けて苦労しない性質はわたしにも受け継がれた。しかし私は洋食党で、魚が大嫌い。子供のうちから嫌いな魚を食べさせられ続けたせいだ。夕飯にアジの干物と里芋の煮物で喜ぶ子供がいたら見てみたいものである。

そして母はといえば、とんでもないことに白米が嫌い。唐揚げも嫌で、鳥の皮が大嫌いだという。タン塩もダメ。おかずは多ければ多いほどよく、ご飯は混ぜご飯に限るという。

よくぞここまで3人好みが違ったものである。

で、誰の意見が通るか。父である。父はとにかく偏食を通した。健康的な偏食なので文句が言えない。さらに母も和食の方が健康にいい、という理屈で父に与した。

おかげさまで私は成人以降もやたら食い物に固執するようになった。それ以前だって、食べたいものは食べさせて貰えないから、買い食いばかりしていた。

で、よそのうちは、だいたい子供に合わせて飯を作ってるときいて、チベットスナギツネのような顔をするようになる。

そんなわけで、母の味を引き継いだのは2つだけだ。

かぼちゃの煮付けは、固いかぼちゃをどうにかして切る。そして1回ゆでこぼし(最近はめんどいのでレンチン)、めんつゆとお湯を入れて煮れば終わり。

余ったら潰してマヨネーズでもいれてかぼちゃサラダにすればいい。

ほうれん草の白和えもマヨネーズを隠し味にする。これはめんどくて、まず豆腐を水切りする。ほうれん草をゆでて水を切って、適当な大きさに包丁でダダンする。

すり鉢にゴマを入れて擦る。でもってさらに小指の先ほどの味噌とマヨ、醤油を入れて混ぜ、最後に豆腐を投入。ほうれん草で和えればできあがり。

味噌と胡麻とマヨと豆腐と醤油のハーモニーが巧みな品になる。これはほうれん草というより、あえごろもを食べる料理な気がする。

こう見ると、全部マヨが関係している。単にマヨが好きなのかもしれない。