カルピス。
ある特定世代を狙い撃ちにする飲料です。
「うちの家のカルピスは薄かった」
「かーちゃんがカルピス濃くしてくれなかった」
ああたかがカルピスされどカルピス。今どき原液がペットボトルに入ってスーパーに並んでるのに、なぜここまで無駄に力が入るのでしょうか。
ぶっちゃけていうと、『年に数回しか飲めなかった』からだと思います。
昭和の時代、カルピスってのは貴重品でした。たいていの家にはお中元でしか届かないしろものです。
「お歳暮でカルピスは届かなかったのか」
カルピスって水で割って飲むものじゃないですか。夏の飲み物として最適ですが、当時ホットカルピスなとどいう概念はありませんでした。
そのため、「冬に冷たいものってのもどうかね」という配慮か、あんまり送られなかったように記憶しています。
するとカルピスが飲めるのは夏、しかもお中元で届いたときだけ。
しかも当時のカルピスは高かった。いくらか知らないんですが、だいたい1箱5000円として、4本入ってたら1250円。子供の飲むもんじゃなかったですね。
高級品ですから、もちろん子供に渡して「好きなように飲みなさい」などという親はいませんでした。
必ずかーちゃんという昭和型専業主婦系決戦怪獣が管理しています。
そして、たかいので友達の家にあそびに行くと、かーちゃんという見栄の張った生き物はお菓子とともにカルピスを出してくれます。
子供心に、これが薄かったり濃かったりで貧富の差がわかります。残酷な飲み物ですな。
だいたい薄い家は兄弟が多かったり、あんまり豊かではなかったりというお家です。
そして「うちの家のカルピスは薄かった」という人は、だいたい甘いものが好きな子供だったみたいです。
虫歯がこわいんで、親もあんまり濃くして飲ませないわけですよ。ケチってるのもあるけど。
また、カルピスは子供のご褒美としてはかなりの威力を発揮します。特に夏休み、だらだらしてる子供に水撒きとかやらせたい場合、カルピスを餌にすると子供はよく釣れます。なので親としてはなるべく薄めて長く使いたいという思惑もあるようです。
ちなみにわたしの家のカルピスはわりと濃いめでした。
わたしは子供時代にチョコを食べると鼻血を出すという珍妙不可思議な体質でして、甘いものが苦手でした。カルピスは酸味があるので好きです。
ふだん甘いものを食べず、虫歯の心配が少ないんで濃くしてくれたわけですね。
それでもカルピスは夏にしか飲めない、貴重な飲み物でした。
今ではカルピスなんてスーパーの棚に並んでいます。ときには特売になってたり。
わたしはカルピスをかき氷にかけるという話を聞いたときカルチャーショックを受けました。
たぶん、戦時中の食糧難を体験した人々が、「わたしご飯きらいだからパン食べるの」
とかぬかすガキを見たときと似たような気持ちだっただと思います。
カルピスをかき氷に使うとかそんな神をも恐れぬ所業があってよいものかと。
まああっていいんですけど。
ちなみにカルピスがここまで廉価に普及したのは、もともとめちゃくちゃ原液がしずみやすかったのを、粒子を細かくして沈殿しないようにする技術のおかげだそうです。
技術ってすごいですね。
ちなみにわたしはカルピスなら完熟白桃味が好きです。昔のわたしが聞いたら目を丸くするでしょうねえ。