姉という存在に興味を持ったのは高校の時です。
クラスメートに穏やかで朗らかな性格の子がいました。怒ったところを見たことがありません。
ところがです。その子がめちゃくちゃブチ切れて弟を詰めているシーンに出くわしました。
それは学園祭の日です。その子の哀れな弟は、姉の「差し入れ持ってこい」という要求に屈して、崎陽軒のシウマイを持ってきました。
まあ、十代男子のセレクトなんてそんなもんです。
これに姉がガチギレ。大声で怒鳴り始めました。
「なんでシウマイなんかもってくんの? 普通さ、差し入れにシウマイなんか持ってこないよね? どうしてあんたはそんななの? 信じられない!」
信じられないのはこっちです。
シウマイごときでなんでそこまでブチ上がるのか。
学園祭のお客様がびっくりして眺めております。そりゃ、良妻賢母を育てるミッションスクールの女子校の生徒が、大声張り上げて激ツメしてたら見世物です。
とりあえず仲裁に入りましたがらちが飽きません。しょうがないので、裏に追い出してケンカを続けてもらうことにしました。
弟君はしょげていました。シウマイはおいしかったです。
帰宅して、この話を母親にしました。すると母親もブチ上がりました。
弟ごときがそのような振る舞いをするとは言語道断、だと。
ワケが分かりません。
差し入れにシウマイ持ってきてなんでそこまでブチ切れるのか。しかも子供のしたことじゃないですか。ジェットシウマイなら匂いで迷惑ですが、普通のやつですし。
母親の言い分を整理すると、こうです。
「弟というなまものは姉に絶対服従せねばならない。差し入れを姉が欲したというのなら、姉が欲しい物品を即座に察知し、それに従うのが弟の正式な作法である。
かの弟は察知能力が低く、シウマイという差し入れにふさわしからぬ食品を送って姉に恥をかかせた。これは断頭台に送るべき所業である」以上。
わたしは姉がいる弟にはぜったいなりたくないな、と思いました。あと崎陽軒が気の毒でした。
うちの母親は極端な性格なので、たぶん例として異常値なのでしょう。
しかし、穏やかなクラスメートでさえ、あれほど豹変するのはなぜか。
わたしが姉と弟という関係性に興味を持ったのはそれからです。
観察を続けていると、以下のようなことが判明しました。
- 姉という生き物は、弟を道具か下僕か猫くらいに思っている。下手すると猫のほうが地位が高い。
- 弟という生き物にとって、姉は天敵である。だいたい姉がうざいと思っていても逆らえない。女はそんなもんだと諦めてるので、モテる場合がある。
- むろん全てに当てはまるわけではない。
ちなみにうちの父親には、姉が4人います。全員看護婦で長女は婦長さんです。
ねーちゃんが4人いるというのはどういう気分なのか、父に聞いてみました。
父は黙っていました。顔を背けています。ややあって、心底疲れた声でいいました。
「あれは姉じゃねえ」
そして続けました。
「かーちゃんが4人、いるようなもんだ」
あれほど疲れた父は見たことがありません。
やはりわたしは思うのです。
来世があっても、姉がいる弟にはなりたくないなあ、と。