たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

鉄道マニアが役に立ってた頃

私が社会人成り立ての頃、会社のあるおじさんの机には時刻表がどさどさ積んであった。もちろん鉄である。

会社で趣味を貫いて良いんだろうか、と思っていたが、見てると役立ってることに気づいた。

出張や外回りが決まるとみんなその鉄おじさんに聞きにくるわけだ。

「再来週の月曜、博多行きたいんだけど安い路線ある?」

するとおじさんはニコニコしながら時刻表を取り出す。

「それはね、東京からこの列車に乗ってさ、それからここで乗り換えて、これに乗って、こうして、ああして。

もしくは上野からこれに乗るかしてだね。あ、定期あるの?だったらこっちのほうが……」

当時も今もそうだが、紙の時刻表と言うのはとにかく読みにくい。まず先頭の路線図で目的地までの乗り換えと乗る路線を調べなきゃならない。そして目的地への列車の時刻を確かめる。

もちろん乗り換え路線ごとに丁寧に乗ってるわけじゃないから、206ページに指を挟み、625ページに鉛筆をはさみ、そして後ろ側の値段表を見ながらああでもないこうでもないと頑張るわけである。

すこぶるめんどくさい。

そして時刻表は独特の表記なのでさらにわかりにくい。レとか飛ばされる記号だ。過疎路線だと駅名が無かったりする。

そこまでやって調べても、現地に行ったら時刻表が変わってたとか、見間違えてたとかある。そして責任のなすりつけ合いが始まる。

こう言う時に、鉄道マニアが一人いると楽ちんだ。

彼らは苦も無く、むしろ喜んで時刻表を見て、下手すると見もせず丸暗記で行き先と切符の価格を教えてくれる。

会社に時刻表が積んであるおじさんはそういう理由で重宝されていたわけだ。

ところが、知っての通り、インターネットが普及してすぐに時刻表は簡単に検索されるようになった。

東京から博多までなんて入力してすぐ出る。

切符なんか買わないでSuicaでぽんだ。

これで出かける人はだいぶ増えたと思う。

なにしろ私の学生時代、23区内に行くとしても地下鉄があるともうダメである。遠かろうが高かろうが山手線と中央線をできるだけ使って行くことになる。

都民でなきゃ都営地下鉄の使い方なんかわかるはずがない。

しかし今となっては茗荷谷までだってスマホで簡単に探せる。逆に言うとフットワークの軽い迷惑行為者にも便利になってしまった。

昔は住所とか気軽に公表されてたが、わざわざ下調べ一日かけて苦労して嫌がらせにくるやつはほぼいなかったからだ。

そして、鉄道マニアのおじさんの出番も消えていった。

今では役に立ったことなど忘れられている。