高校生くらいの時、新幹線に乗ってたらラブホの壁に「釜飯無料サービスあります」とのれんが掲げてあるのを見た。
なんで釜飯。ラブホで釜飯。
高校生の私にとって、ラブホとはロマンティックな繁殖行為をする場所な気がした。ロマンティックなシーツ、ロマンティックな枕、ロマンティックな釜飯。
一汗かいたあとに「じゃあ釜飯行くかー」になるのか。わからん。
そしてこの年になってもラブホで釜飯が出る理由が分からない。わざわざそのためだけに新幹線乗って釜飯の出るラブホまで行きたくない。
さて、大人になって出張で新幹線に乗る機会があった。まだ釜飯ラブホはあった。どこかは忘れたが。
その出張というのが酷いもので、未経験入社3日なのに、新幹線乗ってさらにその先の果てに行って現地で泊まり込みで仕事してこい、という、令和基準ではあり得ないブラックだった。
つまり客先常駐である。
「このホテルはいいとこだよ。朝ご飯つくから。いつもは床で寝てるしなあ」
と、人身売買の元締めみたいなやつはいった。
全然よくなかった。朝ごはんはおにぎりと、味噌汁だけだった。それさえ7時半過ぎると無い。ちなみに周囲に店はコンビニ1軒。死ぬ。
それだけではない。同じ客先にキャピキャピした若い大会社の連中がいた。会議でなんの役にも立たない質問をして、客先の連中をキレさせるのが仕事である。
その若いのが言った。
「うちはホテルいいとこなんですよー。朝ごはんビュッフェなんです。太っちゃいそう」
与らば大樹の影である。氷河期でなかったら。私は歯軋りした。
その夜私はコンビニのおでんを1人で食べた。
帰りの新幹線の中で「釜飯無料サービスあります」の暖簾を見た。私が止まってるホテルは釜飯以下だ。
私はそのあとその会社を辞めた。
釜飯以下の扱いを受ける時は、とっとと辞めたほうがいい。