世間には犯罪が多々あるが、これは、一体どうしたら回避できたのかさっぱり分からないという、後味が極めてよくない事件の話だ。
産経新聞によれば事件が起きたのは平成20年11月10日。千葉の銀行に勤めていた若い男性が当時19歳の男が運転するトラックに引かれて亡くなった。
逮捕された少年は軽度の知的障害があった、と書かれているが、これだけの話ではなかった。
『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』石井光太の著作から、被害者の母が語った話によると、犯人の母親は名前が言えないほどの知的障害があり、姉も知的障害があった。そして父親は日々犯人を殴っていた。
その上、父親は会社の社長でもあったので、息子はそこに勤めた。家でも会社でもぼこぼこである。逃げ出しても親族だから捕まるし、逃げ切れるだけの能力が無い。そこで犯人は「人を殺せば刑務所に入れて父親から逃げられる」と考え、実行した--というのである。
この環境で、どうやったらひき逃げをやめさせられたかびた一文分からない。ひき逃げ以前に軽い罪を犯していたそうだから、その時更生させればよかったのかもしれないが、父親のところへ戻る限り元の木阿弥だろう。他の家族はあてにできない。
私はこの事件を思い出すたび、どうしようもなさを感じる。ほんとうにどうにもできない。亡くなられたかたの冥福とご遺族が穏やかであって欲しいし、どうにか、被害者を出さない方向になってくれないかと、祈るしかない。