こないだ休止になった山の上ホテルの喫茶に、はるか昔1回だけ行ったことがあります。
たまたま御茶ノ水に用事がありましたが早く着きました。で、じゃあ贅沢に山の上ホテル行ってみるか!でホイホイ向かったわけですよ。
まずね、坂がキツい。山の上ホテルってガチですわ。息が切れた。階段3階くらい。
そもそもタクシーで来る客だけ想定してるんでしょうけど。
一応身の程は弁えてるんで、喫茶店を目指します。ここのコーヒーはたしか水出しだかなんだかで美味しいらしいです。池波正太郎さんが書いてました。
このホテルを知ったのは池波正太郎さんの著作からです。ただ、エッセイに出てくる天ぷらとか11種類だかある朝食だかを頼めるほどまだ稼いでいませんでした。
で、優雅なロビーなんぞを通り過ぎ、道に迷いながら喫茶室に到着。
「へーすごいね、赤絨毯だ」
一面の赤絨毯に古めかしい木の建具。目の前に水出しコーヒーの巨大な器具がおいてあったと思います。
何名さまですかという質問に1人ですと答え、通されたのが奥の窓際の席。
そしてメニューを見てビビった。
コーヒー1000円スタート。そりゃそうだホテルだもんね。喫茶室とはいえロビー以下なはずなかった。
頭の中で『開運なんでも探偵団』の「イチ、ジュウ、ヒャク……」って合成音声がなり出しました。
用事思い出しましたって帰ろうかと思いましたよ。
それでもしれっと注文。
「コーヒーとサラダお願いします」
こういう時は、ビビった様子をみせず、なるたけ平然としてるのがコツです。
だいたい堂々と振る舞っていればなんとかしのげます。
高校の卒業式の壇上で、卒業証書もらう時の作法忘れた時も胸を張ってどうどうとしてたら、間違えたことがバレませんでした。しかもその後十人くらい真似して同じ間違いしてた。
さて、与太話はともかく、コーヒーとサラダが運ばれてきました。
そしてウェイターさんも誰もみんな親切でていねいで馬鹿にされるなんてありまさん。
コーヒーの味は、今のわたしならともかく、その頃のわたしには「美味しい」くらいしか分かりません。たしか濃かったと思います。
しかしサラダです。白い平皿に、玉ねぎとレタスとその他が盛られたごく普通のサラダです。銀色のフォークでひと口たべて仰天。
野菜が生きてる。
サラダってのは水っぽくなりがちなもんです。しかし、山の上ホテルのサラダは違いました。外側に水分子ひとつさえ無いと断言できそうな水切り具合。しかし乾燥しているのとは違い、野菜の細胞の中にはみずみずしさが宿っています。
わたしはその時も今も野菜はあまり好きではないですが、このサラダはべつ。
サラダは水切りが命とはいいますが、よくぞここまで水を切ってみずみずしさを保てたもんです。
「つまらないものを食べるくらいなら、その金を貯めておいていいところにいったほうがよっぽどいい」みたいなことを池波正太郎さんは書いていました。
その言葉がよーく身に染みました。このサラダを出すホテルならさぞかし他の食事も美味しいことでしょう。
さて。
わたしがマクドナルドのダブルチーズバーガーなどに血の道を上げてるうちに、山の上ホテルは休館してしまいました。
『てんぷらと和食山の上』なら、銀座で営業してるそうです。がんばって貯金しますか。
ゼロ文字です。わたしの美食貯金にご協力いただけるかたはよろしくお願いします。