かなり今更なんですが、『ビリーミリガンと23の棺』上下巻を読み終わりました。今更ですねえ。初版1994年ですって。時の流れが早すぎるよフェルン。
このあたりから多重人格とか一般的になったような気がします。『多重人格探偵サイコ』とかが97年。つーかこのコンビがやってた『魍魎戦記MADARA』ってどうなったんでしょうか。
話は戻してこの『ビリーミリガンと23の棺』、読みたかったけど金がない枠に入ってました。で、こないだ思い出して読んだわけです。
ビリー・ミリガンという人は1977年に連続強姦事件を起こして逮捕されました。ところがどうも様子がおかしい。調べて見ると彼は多重人格者でした。原因は幼少時の虐待。
というのがだいたいのところです。前作にあたる『24人のビリー・ミリガン』が有名で、23の棺は続編です。
続編は裁判終わって治療に入ったビリーがどうなったかという話し。
ビリーの支持者は彼を治療させるために設備の整った精神病院に入れようとしていました。しかし、そうでない人々は彼を危険とみなし、精神をわずらった凶悪犯を収容するライマ病院へ送りこみました。
このライマ病院、患者は薬漬けにされるわムチでしばかれるわ、とんでもない劣悪な環境です。さらに目を付けられると、電気ショック療法にかけられます。こめかみに電極を当てて電気を流すやつですね。
とうぜんビリーは不服を申し立てるんですが……。
この人連続強姦の犯人なわけです。で、そのことは本人も認めています。また、ライマ病院でも最悪な場所に入っている人たちは、カミソリで人の顔を切り裂いたり、スーパーで銃を使った強盗を働いたりした凶悪な犯罪者です。理由はどうあれ。
仮にわたしがビリーの被害者であったとして、この扱いをどう思うでしょうか。
当然の報いだ、ざまあみさらせとしか思わないような気がします。もっとヒドい目にあって然るべきだとさえ思うかもしれません。
実際、全米女性機構の一人はビリーに襲いかかろうとさえします。
そりゃビリー・ミリガンが幼少時気の毒な目にあったとしても、他の誰かが被害を受ける理由は1つもありません。
そんなやつになんでいちいち治療なんざ施してやらなきゃならないのか。
読みながらこの疑問がずっとつきまとっていました。
しかし、ビリーとその支持者の活動もあって、ライマ病院の悪行は改善されます。ビリー自身も違う病院へ移されました。そこでビリーは次のように思います。
一九七七年におまえが女性たちにしたことは間違っていた。だが、おまえは頭を病んでいたし、いまでも病んでいて、申しわけないと思っている。だが、そのことを心のなかで焼きつくして、生きぬかなければならない。
ダニエル キイス. ビリー・ミリガンと23の棺 下 (ダニエル・キイス文庫) (p.53). 早川書房. Kindle 版.
ライマから出て、ビリーは女性達に対して謝罪をするようになります。そりゃ確かに、いつ殴られるか分からないところで悔い改めてる余裕はないでしょう。
そしてビリーは自由の身になり、自身が虐待されたから女性達にもそうした、虐待した継父チャーマーもだれかに虐待されたのではないか、ずっと続く虐待の連鎖に気がつきます。
いまでは、ぼくがしたことで、彼女たちが一生苦しむことになるとわかっています。すごく申しわけないと思います。(中略)どうか彼女たちが心のなかで許し、ぼくのように癒されますように
(中略)
つまり、ぼくがまずチャーマーを許さなければならないってことです。
(中略)
彼に許すと言います。そうすれば彼の霊は、子供のころの彼を傷つけた誰かを許し、たぶん許しは過去に遡っていき、未来を変えるでしょう。人間は、おたがいに傷つけあうことをやめなければならないんです
ダニエル キイス. ビリー・ミリガンと23の棺 下 (ダニエル・キイス文庫) . 早川書房. Kindle 版. カッコ内筆者
彼女たちがビリーを許すかどうかなんてビリーに関係はない。これを聞いても一生苦しんでいろと思うかもしれない。わたしだったら憎み続けます。
ただし、ビリーが悔い改めようとしていると聞けば、多少スカッとはします。しないよりはマシというものでしょう。
わたしが知る限り、犯罪被害者は犯人に謝罪を求めます。残念ながらほとんど叶うことはありません。
犯人は犯罪者となった自分を憐れむことがあっても被害者については知らぬ顔をしていいます。
ですがビリーは違いました。悔い改め始めました。
犯罪者の更生は難しい問題です。社会に再び出て、納税するような働きをさせるほうがいいと理性では分かっています。
しかしわたしの感情は、犯罪者なんて苦しめばいい、隔離されていればいいと叫びます。自分は当事者でもないのに。
ビリーの物語を読んで、犯罪者の扱いについて考えました。ビリーのように、全ての犯罪者が被害者に謝罪するようになればいいと思います。そのために、わたしが当事者でもないのに感情的にならないようにとも。
さいごに、ビリーの言葉をもう一度。この世界に向けて。
人間は、おたがいに傷つけあうことをやめなければならないんです