たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

しなびたカレーコロッケ

お題「「これぞ青春の味!」と思う懐かしい味はありますか?」

揚げ物は全てこれ出来たてに限る、とは清少納言の言葉ではありません。しかしたいていの人に共感してもらえる意見だと思います。

残念ながら、学生時代に購買で売ってたカレーコロッケは揚げたてではありませんでした。

というより、おそらくできたてをビニール袋に入れてセロテープで口を閉じたため、湯気が密封されてしなしなのしな。柔らかく、しかし辛うじて崩れていない奇跡のバランスを保つシロモノでした。

購買というか、お昼休みが始まると購買前で近所のパン屋が惣菜パンを販売していました。その中で唯一おかずと言えるのがカレーコロッケだったのです。

だいたい5つくらいしかないので、昼休みのベルが鳴ったら速攻で席を立ち全速ダッシュで駆けつけて手に入るレベルでした。

ちなみに我が母校は、女子校のクセして校門にナンパ師もよりつかないほどのド僻地にありました。つまりコンビニや売店、食べ物屋などは30分歩かないと存在していません。

文明よりも自然に恵まれたと言えば聞こえはいいですが、食い物より先に野草とかキノコを料理した方がマシかもしれません。

そんな中、ストレスから来る空腹をなだめるために、私は弁当の他にいろいろと食べまくっていました。購買のカレーコロッケは確か80円という値段といい、大きさといい、手頃なものでした。

カレーコロッケと弁当と、それから惣菜パンを数個持って、わたしは校内にいくつもある秘密ポイントへ向かいます。

モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。

孤独のグルメ 久住 昌之 (著), 谷口ジロー (イラスト) 

井之頭五郎さんはそう言っています。私もひとりで優雅に、陰口やイヤミといった女子校ならではのヘドロみてぇなやりとりに参加せず、青空を見ながらランチを取りました。

わたしはいくつカレーコロッケを食べたか分かりません。卒業後、あの油まみれで冷めててしなびたカレーコロッケを見たこともありません。

しかし青春の味といえば、やっぱりあのカレーコロッケに限ると思うのです。