たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

闇の田舎のクズさはどこでも同じ? 南イタリア辺境の闇っぷりを描く『キリストはエボリで止まった』

『キリストはエボリで止まった』という、イタリアの小説をこないだ読み終えました。

作者はカルロ・レーヴィという人です。彼は第2次世界大戦中に思想犯としてとっ捕まり、南イタリアのド辺境に流刑となりました。その流刑中の体験を描いた作品です。

タイトルがなんで『キリストはエボリで止まった』かといえば、エボリという土地までしかキリスト教が伝わってないといえるくらい、エボリ以降の土地はド辺境だという意味です。

日本で言えば『電車が1日2本しか来ない』『そもそも電車が無い』『バスすら無い』くらいのニュアンスだと思います。

さて、そんなド辺境、ガリアーノ村に飛ばされた主人公。牢屋に入れられるわけでもなく、「この辺からは先に行かないでね」みたいなテキトーな感覚でほったらかされています。

もともと医療系の大学を出ていたせいで、地元では医者としてもてはやされました。本人は全く自信がないのでやりたくないのですが、もともと作家や画家になるくらい感性が鋭いため、同情して押し切られています。

主人公が気の毒になってしまったガリアーノの村の生活。

  • ほとんどが貧乏、毎日パンしか食べられない程度
  • とにかくハエが多い、扉とか真っ黒
  • 乾燥しててまともな水がない
  • そのくせ蚊が多くてマラリアが蔓延しまくっている
  • 家がめっちゃ狭くて1部屋しかない*1
  • ベッドがロフトなみに高くて人間はそこで寝て、下にブタとかニワトリとかが生活している
  • アメリカ、ローマなどに出稼ぎにいくのが唯一の夢だが若者が帰ってこない

ちなみにこれが1935年、昭和10年の話です。昭和の日本もたいがい田舎はヒドいもんでしたが、家畜と一緒の部屋に暮らしてるとか飲み水に不自由してたってのはさすがに聞きません。

で、主人公は医者として働こうとしますが妨害されます。もともといた医者たちが敵視してるのと、村長と、その反対派が揉めてるからです。ガリアーノで多少金がある有力者達はお互いの足をひっぱることはしますが逆はしません。

そして主人公は村人を悩ませるマラリア対策を中央に頼みますが、却下されます。しかも医療行為も止められます。出る杭は打たれるってやつです。

どうしようもなく、主人公は村を去っていきます。

なんか、もう、すこぶる日本の救えない辺境とそっくりです。

  • やる気の無い中央行政
  • 足の引っ張り合いしかしない村の有力者
  • 出稼ぎに行って帰ってこない人々

もっともガリアーノの村には、歌や音楽、演劇といった豊かな文化がありました。カルロ・レーヴィは彼らの生活を彩り豊かに描きだしています。

ボルヘスとかガルシア=マルケスが好きな人にはお勧めの1冊です。

*1:もっとひどい村だと洞窟に住んでる