わりと好き嫌いが多いほうです。魚は苦手ですし、甘すぎるものもちょっと。野菜も実はそんなに親しくしたくありません。
ただ、他人とご飯を食べるときは、普通に美味しく食べています。自分から積極的に食べたくないだけで、口にしてしまえば特になんてことはない。まさにザ・わがままみたいな話ですね。
自分は他人と明確に違います。わたしがこよなく愛するマクドナルドのフライドポテトだって苦手な人はいますし、そういう人に無理強いしようとは思えません。ケンタッキーだってモスバーガーだってありますから。
他人と食卓を一緒にするのは、美味しいものを食べてニコニコ楽しくすごすためであって、あーだこーだ寸評しあって場の雰囲気を壊すことじゃないと思っています。
もちろんこの考えだって、他人に強いるものじゃありません。
店の外でなら、「あの料理は死ぬほどまずかった」という話で盛り上がるのも悪いことじゃないでしょう。実際ひどい店だってあります。ネット上でやるといろいろ大変ですからやめたほうがいいと思いますが。
さて、わたしの友達にグルメがいました。彼女の店選びは的確で、必ず美味しいものを出す店に入れます。
コツとしては匂いなんだそうですが、立ち食いそば屋の出汁に惹かれる自分には会得できなさそうなスキルです。
そんな彼女と数人つれだって旅行に出た際。旅先ですから観光客目当てのざっぱくな、いいかげんな店しかありませんでした。あーだこうだといいながらしかたなく入った店で、ピラフとか適当に頼みました。
「このピラフは美味しくない」
彼女が言い出しました。
「脂っこいしそのわりにパサパサ。具は炒めすぎてるし、新鮮でもない。こんなものを店で出す気持ちが分からない」
「店で言うのやめなよ」
さすがに止めました。そしてトイレに行くふりをして、わたしは厨房を除きました。
業務用の冷凍ピラフが入っていた空の袋が捨ててあります。
そこまで確認してわたしは席に戻りました。
彼女の不平不満はいまだに続いていました。外に出て、青空の下でわたしは言いました。
「さっきのピラフさあ」
「まずかったよねえ」
「あれ、わたしの叔父さんが作ったやつなんだよね」
彼女は足を止めました。
「うちの叔父さん、食品メーカーに勤めててね。こないだ自腹でプレゼントしてくれたんだ。あのピラフと全く同じやつ。
始めて開発したやつだから、まだいろいろ改善の余地があるけど頑張るっていってた。
贈ってくれたのと同じ袋が厨房にあった」
「……」
「そりゃたしかに美味しくないよ。うちでもまずいまずい言いながら消費したもん。でもさあ、どんな料理でも作ってる人がいて、その人はその人なりに頑張ってるんだよ。その人にも家族や身内がいる。
いくら美味しくないと思ってても、大っぴらにいうのはあんましよくないと思うよ」
それから彼女は、わたしの前では美味しくないというのを辞めました。
わたしは他人に自分の考えを強いてしまい、このことはちょっとしこりとして残っています。
あんまり毀誉褒貶は口にしないほうがいいってことですね。