たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

おばーちゃんの薬とオトギリソウ

昔『弟切草』というゲームがあった。

怖さで名を馳せたゲームだったらしい…というのがわたしはやってないのである。

その理由が、田舎のばーちゃんがいつも作ってくれた薬だった。

おばーちゃんの薬、といわれたそれは茶色い揮発性の液体で、擦り傷切り傷虫刺され、打ち身打撲にまで使われた万能薬であった。

とくに虫刺されには効力を発揮して、おかげさまでわたしは蚊に刺されまくっても特に問題なく過ごせていた。

昭和のことだから、父の使い終わったヘアトニックの瓶をきれいに洗って、そこの中に液体が入っている。蚊に刺されると、刺された後に爪でバッテンをつけてから、ヘアトニックの瓶から赤い点に液体を振りかける。

それだけで半日たたず治っていた。今となっては、何もつけなくても半日で蚊に刺されたが治っている。どういう仕組みかしらないがありがたい話だ。

切り傷も擦り傷も火傷もおばーちゃんの薬である。

いったいこの万能薬はなにか、といえば、ばーちゃんが茶飲み友達からもらってきたオトギリソウやら摩訶不思議ななんちゃらを焼酎らしいものに漬けたものだった。梅酒の瓶に入って、遠く会津から送られてきたものである。

そういう理由で、『弟切草』と聞いても、別に怖くもなんともなく、田舎のばーちゃんの薬の草じゃん、で終わってしまった。

もう祖母もいないし、もちろんオトギリソウも、あの薬もない。オトギリソウはずいぶん高くなってしまって手が出なくなってしまった。