たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

牡蠣は遠くにありて思うもの

グルメを取り上げたエッセイをよく読む。檀一雄の『わが百味真髄』とか池波正太郎の『むかしの味』とか。

そして、その中に牡蠣が取り上げられてると、実に美味しそうである。

海のミルクがどうの、ぷっくり膨らんだ牡蠣の白い腹だの、レモンを絞ってちゅるっとすする時だの。

みんな牡蠣を大絶賛している。

そして私は魚介類が得意ではない。

新鮮なものを食べられる地域ではともかく、都会で美味しい魚介類を得るだけの財力はない。

だから牡蠣も食べない。

しかし、エッセイにつられ、まちがって牡蠣そばなんて注文したことがある。

大失敗だった。

6個もあるが、なまぐさいし、噛み切るとへんな緑のやつがぶちゅっとでてくるし、口の中ではウミウシがぐねってるみたいだし。

自分は魚介類苦手なんだからどうして注文したの、と情けなくなった。

付き合いで食べる時はだいたいカキフライだ。しかしこれも、フライの衣と染み込んだソースはうまいが、中身は早いこと飲み込むのだけを目当てに食べている。

いままで一番美味しかった牡蠣は銀座ライオンで食べたやつ。

牡蠣の貝殻の上に、トマトと玉ねぎとニンニクと一緒に牡蠣が乗っていて、チーズが掛かっていた。ニンニクがよく効いていて実に美味しかった。

そしてその牡蠣をたべながらおもったものである。

……トマトとニンニクとチーズが好きなだけであって、牡蠣はどうでもいいんだな、と。

全国の牡蠣好きのために、今後も牡蠣は控えていこうと思う。