たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

湧き水探し

『湧き水探し』というのは、私の子ども時代の遊びです。その名の通り、湧き水を探す遊びです。

私が育った街は当時開発が進みつつありました。街のあちこちで工事が行われ、くみ出された地下水が青いビニールパイプを通ってごぼこぼと流れ出ていました。水はどこにでもあった気がします。

まだ未整備の道も多く、ちょっと裏道をあるけばむき出しの地層が見えています。私たちのよく行く児童館の裏の地層からは、運のいい日にはちょろちょろと湧き水が流れ出していました。透明で飲めそうな水です。

さらに運がいいときは、サワガニさえ見つかります。残念なことに水が行き着く果ての河は高く柵が張り巡らされ、子どもが入ることはほぼ不可能でした。なので、ザリガニ釣りというイベントは遠くで行うものです。

流れる水はたくさんあるのに池や泉はない、そんな環境で私たちは『湧き水探し』を始めました。その頃、まだ雑木林がたくさん残っていました。私たちは湧き水がありそうな場所を探し、崖をよじ登り、草木をかき分け、あるはずのない泉がどこかにあると信じて探し続けました。

その泉は水をすくって飲むこともできればザリガニ釣りも出来、素足で入ることだってできるのです。ひょっしたらほんとの釣りだってできたかもしれません。

きっとあるはずと信じ、今日は北、明日は南と探し続けました。子どもが探しきれないほどたくさん林が残っていたのです。

それでも見つからず、結局児童館の裏の、茶色いサンドイッチのような地層から流れ出る湧き水へ戻ります。サワガニでもいないかという奇跡を求めて。

秋になると、どこからかトンボが飛んできて、私たちの湧き水探しは終わります。

そんなことを、トンボを見て思い出しました。