実話なので、ある程度フィクションを混ぜてお話ししたいと思います。
これは私が「吉良さん」と「浅野さん」という2人がいる職場にいた時のおはなし。
吉良と浅野ですから、お二人のあだ名は当然上野介と内匠頭です。
そして困ったことに私の上司は吉良部長です。めっちゃえらい人です。
なのに、電話をかけてくる人は気楽に抜かします。
「おーい、上野介いるー?」
そんで、「はーい討ち入り一丁!」とは言えないじゃ無いですか。非正規で入社半年なのに。
で、回答はというと。「えーそれがどなたかは大体わかりますが、立場上その名前ですとお繋ぎできかねますので、ご配慮いただけると助かります」
「なんだよ頭硬ェなあ、吉良だよ吉良、吉良部長!」
でやっと吉良部長に取り次げます。
一方の浅野さんは、内匠頭というだけあってやたら片付けが得意なお爺ちゃんです。
ある日、ガラクタが溜まりに溜まった倉庫の前で、浅野さんが腰に手を当てて通りがかった私に言いました。
「なぁ、この散らかった倉庫、ぜーんぶ捨ててやったらすーっとすると思わないか?」
「ああ、そりゃいいですねえ。ぜーんぶ片付けたらせいせいするでしょうねえ」
「そうだそうだ、片付けちまおう」
私は当然ただの冗談だと思い、事務所に戻って話しました。
「浅野さんが倉庫の前で、これ全部捨ててやったらすーっとするだろうなあって大笑いしてましたよ」
その瞬間。
赤穂の討ち入りの如く事務所が全員立ち上がりました。
「やべえ!」「今すぐ片付けねえと内匠頭にガチで捨てられる!」
「内匠頭が捨てると言ったらほんとに捨てるんだ!」
切羽詰まった叫びと共に事務所は空になりました。後からついていくと、捨てようとする浅野さんをみんなで止める松の廊下状態です。
そして手の空いた人は必死の形相で片付けに入っておりました。
……言われる前にやりゃいいのに。
その後、何度か似たようなことが起こり、引っ越しと共に全て浅野さんの思う通りになりましたとさ。