たとなてかない

『た』い『と』る『な』ん『て』おもいつ『かない』という意味です。内容はフィクションですよ。

だれだって悪にはなりたくなかったはずなのに

最近読んだ警察関係の本が真逆だったので、印象に残りました。

1つは、『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』。銃器対策やってるうちに覚醒剤に手を出して逮捕された元警官の回顧録です。

もう1つは『墜落遺体』。日航機123便墜落事故において、遺体の身元確認を行った警察官が書いた本です。

同じ警察官の本ですが、まっっったく真逆。かたや悪徳警官、かたや大惨事の中、つらい仕事をやりきった警官です。

いったいなんでこうも全く違うことになっちゃったんでしょうね。

『恥さらし』のほうは、当人が警察に就職するまでが書いてあります。ざっくり言うと柔道が強かったんで採用されたという、まあよくあるパターン。わたしは剣道やってましたが、たしかに剣道で採用されたって話も聞いたことあります。

で、悪徳警官になるまで。まず銃器対策に配属された辺りが分岐点でした。銃器対策ってのは拳銃所持を取り締まるそうですが、捜査手法というのが情報提供者をつくってそこから捕まえていくというもの。

情報提供者といえば聞こえがいいですが、まあ、後ろ暗い人たちですね。もちろん密告したわけですから彼らは見返りを求めます。始めは自腹を切ってましたが足りなくなる。

でも上はあんましお金は出してくれない。それなのにノルマ、つまり拳銃の摘発だけは増えていく。あれどっかで聞いた話ですね。最近だとダイハツとかで。

するとどーするか。見返りを出すわけです。情報とかですね。

行き着くとこまで行った事件がなんと覚醒剤130キロの密輸加担です。北海道警察だけでなく、なんと函館税関まで加わっての大事件。しかも、この覚醒剤は……。

なんと持ち逃げされました。130キロ全部。

あまりの事件なんで映画化されました。『日本で一番悪い奴ら』です。

『日本で一番悪い奴ら』予告編

youtu.be

さすがにその後、覚醒剤に手を出し逮捕されています。

これと全く違うのが日航機123便墜落事故に関わった『墜落遺体』。刑事官をしていた著者が、ひたすら犠牲者の身元確認をしていきます。

なにしろ生存者4人、残りは全て死亡です。遺体といっても全身そろうほうが珍しく、悲惨なケースとしては人の身体の中に違う人がめり込んだとかがあります。

足りない遺体は包帯や布を使って看護師さんたちが補っていきます。その努力には頭が下がるばかり。

しかも当時は昭和。DNA解析もあんまりなく、冷凍技術はとにかくドライアイス一択です。遺体が劣化すればするほど難しくなるため、徹夜が当たり前。

警官は段ボールを敷いて寝ていますが、時間が経って疲弊すると、その段ボールの取り合いが起きるとかいう地獄です。布団くらい差し入れてあげようよと思っても、たぶん匂いがとんでもないことになるかと思います。

人海戦術でどうにかしようにも、場所は体育館ひとつきり。もともと現場が急峻な山ですから、近くとなるとどうしてもその体育館くらいしかないわけです。遠くに運ぶとたぶん遺体が損傷しますからできないんでしょうね。

それでも。

警官も看護師も医師も歯科医師も、みんな仕事を投げ出さずに取り組みました。看護師さんは遺体にファンデーションまで塗ってあげたとか。

自分の子供と同じくらいの遺体を見て、やり場の無い怒りを吐き出す検死官。

C型肝炎にかかった身体に注射を打ちながら、検死を行う医師。

肝硬変なのに現場で仕事をして、その後無くなった歯科医師

ボランティアでけんちん汁やサラダ、麦茶や冷たい飲み物を差し入れてくれた地元のひとたち。

人間の、極限状態での優しさ、尊さが現れています。

この著者も、なんとご遺体の結婚指輪を無くし、「見つからなかったら警察を辞めます」とまでいって土下座しました。

探しに探して、結局見つからなかったんですが、遺族は許してくれました。そこまでやってくれてるのだから、と。

ただ、この事故に関わった人たちのすばらしさを見るにつけ、

「飛行機が落ちなかったらもっとよかったのになあ」と思わざるを得ません。

いったい。

北海道警の警官と、この警官たちと、なにがどう違ってしまったんでしょう。

選べるならだれだって、悪徳警官なんてなりたくなかったはずです。

2冊の本を読み比べて、ため息が出るばかりでした。

最後に、『墜落遺体』から、印象に残った言葉を置いておきます。

トップに信頼され、責任と権限を与えられることによって現場には自ずと「俺がやらずに誰がやる」という運命共同体的な精神すなわち、やる気が湧いてくるものである。

飯塚訓.新装版 墜落遺体 御巣鷹山日航機123便(講談社+α文庫)(p.89).講談社.Kindle版.